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日本蛋白質構造データバンク(PDBj: Protein Data Bank Japan)は、JST-NBDC大阪大学の支援を受け、米国RCSBBMRB、および欧州PDBeと協力して、生体高分子の立体構造データベースを国際的に統一化されたPDBアーカイブとして運営するとともに、様々な解析ツールを提供しております。

今月の分子(Molecule of the Month)

このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。

2009 / 07: No. 115
β-セクレターゼ(beta-Secretase)

:翻訳 工藤高裕 (PDBj)
β-セクレターゼ(上は PDB:1sgz の触媒ドメイン、下は PDB:1py1 の膜への固定部位の一部

我々が持つ多くの蛋白質は、作られた後に整形され、折りたたまれ、不要部分を取り除いて整えられて適切な機能する型となるよう促される。様々な種類の特化したシャペロン(chaperone)と蛋白質分解酵素(protease、プロテアーゼ)がこれらの仕事を行う。ところが時々これらのシャペロンと蛋白質分解酵素は間違いを犯し、生命を危機にさらす結果を招くことがある。

蛋白質の切り取り

β-セクレターゼ(beta-secretase)は、BACE1またはメマプシン(memapsin)とも呼ばれる蛋白質分解酵素で、ある蛋白質鎖の成熟過程において特定部位の切断を行う。これは通常小胞体(endoplasmic reticulum)とゴルジ体(Golgi apparatus)で見られる酵素で、特に神経機能に重要ないくつかの蛋白質を切って整形する。対象となる蛋白質には、神経軸索(nerve axon)を取り囲む髄鞘(ミエリン鞘、myelin sheath)の形成制御を助ける蛋白質「ニューレグリン」(neuregulin)や、神経信号(nerve signal)の伝達に重要な「電圧で開閉するナトリウムチャネル」(voltage-gated sodium channel)が含まれる。

しばられた3量体

β-セクレターゼは消化酵素のペプシン(pepsin)と非常によく似ている。ペプシンと同様に、蛋白質鎖をつかむ奥深くにある活性部位の溝と、つかんだ蛋白質を切断する1組のアスパラギン酸(aspartate)というアミノ酸を持っている。ところがβ-セクレターゼは膜表面に自身をつなぎとめる長い尾部を持っているところがペプシンとは違っている。この尾部はβ-セクレターゼを適切な場所だけに位置するようにし、自由に細胞内をただよって他の蛋白質に大惨事をもたらすことがないようにしている。PDBのデータベースに登録された2つの構造が酵素の2つの部分を示している。上に示したPDBエントリー 1sgz は蛋白質を切断する触媒ドメイン、下に示したPDBエントリー 1py1 はβ-セクレターゼを膜につなぎとめている部分のうち膜の反対側にある小さな部分を示している。

間違いを犯す

残念ながら、β-セクレターゼは良くない面も持っている。場合によっては、アミロイドβ前駆体蛋白質(amyloid-beta precursor protein)の蛋白質鎖を壊し大きな部分を解放するという不適切な切断を行うことがある。そして、もし別の蛋白質分解酵素がその解放された大きな蛋白質の断片を切断すると、小さいが危険なペプチドが形成される。このアミロイドβペプチドは特に粘着性が高く、凝集して絡まった線維を形成する。もしこの線維が神経細胞で形成されると、神経伝達が阻害されてアルツハイマー病(Alzheimer's disease)を引き起こすかもしれない。

正しい場所につく

β-セクレターゼ(ピンク)と結合しているGGA(青、PDB:1py1)、赤と黄色の部分は結合を助けるリン酸化部分

β-セクレターゼの尾部(ピンク色)はこの酵素の細胞内における存在場所を制御している。この部分は、小胞体やゴルジ体と細胞表面との間で蛋白質輸送を制御しているGGA(上図青色部分、PDBエントリー 1py1)などの蛋白質に結合する。この尾部の端にある小さな部分(赤と黄色の部分)はリン酸化され(phosphorylated)、細胞全体で蛋白質輸送を指揮しているこれら蛋白質とβ-セクレターゼとの結合制御を助けている。

構造をみる

上:β-セクレターゼ阻害剤(PDB:1fkn) 下:より強力なβ-セクレターゼ阻害剤(PDB:1m4h)

対話的操作のできるページに切り替えるには以下のボタンをクリックして下さい。

β-セクレターゼはアルツハイマー病の進行には非常に重要なので、多くの研究所でこの働きを妨げる阻害剤(inhibitor)を見つける努力が熱心に行われている。そして最初に見つかった阻害剤(PDBエントリー 1fkn)を上図上に、より強く結合するよう改良された阻害剤(PDBエントリー 1m4h)を下に示す。他にも数多くの薬剤候補の構造がPDBデータベースで見ることができる。残念ながら、これらの化合物は血液から脳へ効率的に輸送されないので、アルツハイマー病と闘う薬としてまだあまり有用なものとなっていない。しかし新薬探索は、この身体を衰弱させる病気との闘いの中で続けられている。

文中に登場するPDB IDをクリックして表示されるPDBj検索結果(xPSSS)の「Sequence Neighbor」ページで、β-セクレターゼと似た配列を持つエントリーの最新リストを見ることができる。

理解を深めるためのトピックス

  1. 蛋白質の切断に1組をアスパラギン酸を使っている蛋白質分解酵素がいくつかあります。他の例をPDBデータベースから見つけることができますか?
  2. β-セクレターゼに結合した阻害剤の構造が多くPDBに登録されている。β-セクレターゼによって切断される蛋白質鎖と非常に似たペプチド様阻害剤の事例と、ペプチドとは著しく違っている別の阻害剤の事例を見つけることができますか? そしてそれぞれの有利な点と不利な点は何でしょうか?

参考文献

β-セクレターゼの触媒ドメイン(PDB:1sgz)

文中に登場する構造について記した文献の概要を読むには、各PDB IDをクリックし、「Primary Citation」にあるPubMedまたはDOIのリンク先に進めばよい。以下に一般的な文献の情報を示す。

  • C. E. Hunt and A. J. Turner 2009 Cell biology, regulation and inhibition of beta-secretase (BACE1). FEBS Journal 276, 1845-1859
  • J. H. Stockley and C. O'Neill 2008 Understanding BACE1: essential protease for amyloid-beta production in Alzheimer's disease. Cellular and Molecular Life Sciences 65, 3265-3289