| More ... | PDB:2yxfタンパク質名β2-ミクログロブリン 生物種ヒト(Homo sapiens) 生物学的役割β2-ミクログロブリン(beta2-microglobulin、β2-m)は主要組織適合抗原クラスI(major histocompatibility complex class I、MHC-I)の軽鎖である。β2-mは複数の水素結合を通して重鎖に結合しており、MHC-Iの細胞表面発現において重要である。 β2-mは細胞膜から分離され、腎臓で完全に分解される。しかし、長期血液透析患者の血漿中では、β2-m濃度が通常の60倍(30–50 mg/ml)まで高くなることが報告されている。β2-m濃度が異常に上昇することが、不溶性のβ2-mアミロイド線維を形成する要因の一つとなる。β2-mアミロイド線維は、関節や骨に沈着して運動障害や痛みを引き起こす透析アミロイドーシス(Dialysis-Related Amyloidosis、DRA)の原因となる。 同様に、β2-m濃度の上昇により発症する疾患としては、腎疾患(renal disease)、悪性腫瘍(malignancies)、感染症、ウィルソン病(Wilson's disease)などがある。 β2-mは60位と95位の2箇所にトリプトファンを有し、これらは分子表面に存在する。一般に免疫グロブリンドメイン(immunoglobulin domain)では、ジスルフィド結合の近くにトリプトファンが存在し、これはよく保存されている。しかし、β2-mはこの分子内部に埋もれたトリプトファンを持たない。 筆者らはアミロイド線維構造を天然構造と比較することにより線維構造の理解を目指した。そのためにトリプトファン変異体を作製し、変異体β2-mの天然構造を決定した。60位と95位にあるトリプトファンをフェニルアラニンに置換し、39位にトリプトファンを導入した(W60F/W95F/L39W)。39位は、他の免疫グロブリンドメインで保存されているトリプトファンの位置である。トリプトファン変異体の導入は、線維構造や線維形成機構の理解に有用な手法であることが提唱されている。 立体構造の特徴
上列から野生型pH7.0、野生型pH5.6、変異体pH5.6の構造。 99残基からなるβ2-mは典型的な免疫グロブリンスーパーファミリー(immunoglobulin superfamily)のドメイン構造を取る。これは7本のストランドからなるβサンドイッチ構造を持つ。βストランドに属する残基は以下の通りである。ストランドAは7~12、ストランドBは22~30、ストランドCは36~41、ストランドC′は43~44、ストランドDは51~56、ストランドEは62~69、ストランドFは78~83、ストランドGは91~94である。β2-mの構造は、分子内ジスルフィド結合(Cys25-Cys80)や疎水性相互作用により安定化されている。 筆者らは、pHや結合状態の違いによるストランドDの構造変化を比較するために、pH 7.0におけるβ2-mモノマーの結晶構造を決定した。ストランドDはpH 5.7におけるβ2-mモノマーの構造と同じく、バルジ構造ではなくβストランドであった。β2-mのストランドDはpH5.7~7.0の範囲では、MHC-Iに結合しているとバルジ構造を取るが、単離されるとpHに関係なく一つの長いβストランド構造をとることが分かる。さらに、ストランドDの構造変化は、β2-mの構造安定性に影響を及ぼし、アミロイド線維形成能を調整すると考えられる。 加えて、pKa値が低いTyr67が脱プロトン化されていることと、pKa値が高いHis51が空間的に隣接するTyr67と相互作用していることが示唆された。また、温度因子(B-factor)を計算し、動的構造の特徴を調べた。多くのループ領域(AB、CD、EF、GH)と両末端は温度因子の値が高いことから、これらの領域は運動性が高いことがわかった。 変異体β2-m(W60F/W95F/L39W)の天然構造の結晶構造は、野生系β2-mの天然構造とほぼ同じだった。主鎖のN、Cα、C、O原子を用いて計算したRMSD(平均二乗偏差、2分子間の各原子のずれの大きさを示す指標)は0.51 Åであった。CDループのArg45~His51やDEループのLys58-Trp60の領域に構造の違いが少しあった。前者は結晶のパッキング効果に、後者は60位に変異を入れた(W60F)ことによると考えられる。他方の免疫グロブリンドメインで見られるように、Trp39の側鎖はジスルフィド結合に対して平行に向かい合いながら強い相互作用をしていた。 タンパク質構造データバンク(PDB)
参考文献原論文
その他著者: 李 映昊 |