| More ... | PDB:1ULHタンパク質名トリプトファン-tRNA合成酵素(mini TrpRS) 生物種ヒト 生物学的役割タンパク質合成においてtransfer RNA(tRNA)は選択的にアミノ酸と結合し、そのアミノ酸をリボゾームまで運ぶ。運ばれて来たアミノ酸はそこでtRNAから解離し、伸長されて新しくペプチド鎖につながれてゆく。アミノアシルtRNA合成酵素 (aaRS) はアミノ酸残基とそれに対応するtRNAを選択的に結合させる酵素である。aaRSの中にはアポトーシス(細胞の自殺)を引き起こした細胞から分泌されて血管形成の制御に関わるものがあるということも分かっている。トリプトファンtRNA合成酵素 (TrpRS) はその一つである。ヒトTrpRSはクラスIのアミノアシルtRNA合成酵素(クラスIIとは触媒ドメインの構造が異なる)に属する。ヒトTrpRSは〜500アミノ酸残基から成るそれぞれのサブユニット間でホモ2量体を形成している。ここではスプライシングを受けて最初の46残基が欠損したmini TrpRSの構造が示されている。とても興味深いことにmini TrpRSは血管新生を抑制するのに対して、全長TrpRSはそのような活性を示さない。 立体構造の特徴
ヒトmini TrpRSの構造は4つの異なるドメインに分類できる。すなわちN末端ドメイン (アミノ酸残基82-154番)、Rossmannフォールドのヌクレオチド結合ドメイン(アミノ酸残基155-347番)、Rossmannフォールドドメインの間に挿入されたCP1ドメイン(アミノ酸残基247-292番)、TAB (tRNAアンチコドン結合)ドメイン(アミノ酸残基348-471番)である。CP1ドメインはダイマー相互作用面にあり、CP1ドメイン間で相互作用することによってダイマーを形成している。このような構造は原核生物のTrpRSやヒトmini TyrRSといった他のaaRSと非常によく似ている。Rossmannフォールドドメインで重ね合わせた場合、r.m.s.d(平均二乗偏差)はそれぞれ1.66Åと1.43Åである。しかし、驚くべきことにこれらの酵素はヒトmini TrpRSとは全く反対の機能を持つ。つまり、これらの酵素は血管新生を促進するサイトカインなのである!なぜmini TrpRSだけがはそんなに特殊な機能を有するのだろう? 上記のaaRSとの構造比較からmini TrpRSは4つの独特なドメインを持つことが分かる。先に示したN末端ドメイン(M1)、CP1ドメイン中の293-304番のループ構造(M2)、TABドメインの381-390番(M3)そしてC末端のヘリックス (M4)から構成される。mini TrpRSのM1からM4までの4つの独特なドメインのうちどれか1つを欠損させた4変異体による実験の結果、TABドメインのM3ループがmini TrpRSの血管新生抑制活性を持つことが分かった。たった8残基のアミノ酸によるほんの小さな構造変化が酵素の機能を逆転させてしまうのだから驚かざるを得ない。腫瘍形成には異常な血管新生が伴うので、mini TrpRSの構造は抗癌剤のデザインに役立つ鋳型となるかもしれない。 タンパク質構造データバンク(PDB)参考文献原論文
その他著者:Rossen Apostolov 訳者:永田 明希 |