| More ... | PDB:1UJ1タンパク質名SARSコロナウィルス・メインプロテイナーゼ 生物種SARSコロナウイルス 生物学的役割2002年11月に中国の広東省で異型肺炎として報告されたSARS(重症急性呼吸器症候群)は、2003年1月から2月の間に32ヶ国にまでその感染を拡大し、2003年7月にWHOが終息を宣言するまでに約8500人に感染し、900人以上が死亡した。そして、その急速な感染力と高い死亡率が世界的な脅威となった。症状は、2~7日の潜伏期間を経過した後、38度以上の急な発熱で発病し、主に咳きや呼吸困難等の呼吸器症状が認められ、重篤な場合は挿管や人工呼吸器の使用が必要となる。主要な感染経路は患者の咳きやくしゃみによる飛沫感染であると考えられている。病原体は、新型のコロナウイルスでSARSコロナウイルスと名付けられた。コロナウイルスはポジティブセンスの一本鎖RNAウイルス(感染時にゲノムRNAが宿主でmRNAとして働き、蛋白質に翻訳される)で、これまで知られている中で最も大きなウイルスゲノムを持っている。コロナウイルスのゲノムRNAの複製と転写に関与するするレプリカーゼは、重複を持つ2つのポリプロテインpp1a (486 kDa)とpp1ab (790 kDa) としてコードされている。ポリプロテイン中には幾つかの異なる蛋白質が連結されており、この前駆体から個々の蛋白質がプロテアーゼによって部位特異的に切り出されて機能を発揮する。切断は主にメインプロテアーゼ (Mpro) (別名:3C-様プロテアーゼ、3CLpro)によって行われる。このプロテアーゼ自身もポリプロテインの一部になっており、SARSや他のコロナウイルスの感染に対する薬物開発の有力なターゲットとして考えられている。SARSコロナウイルスのMpro (SARS-CoV Mpro) は、人や牛のコロナウイルス、豚の伝染性の胃腸炎ウイルスのものとの相同性が高い、広義のセリンプロテアーゼがとるフォールドをとっている。 立体構造の特徴
結晶中では二量体を形成しており、各単量体は3つのドメインで構成されている。N末端側の2つのドメイン(ドメインI、ドメインII)は、他のコロナウイルスのプロテアーゼと相同性の高い逆平行のb-バレル構造をとっている。C末端側の3つ目のドメイン(ドメインIII)は5つの逆平行に配置したa-ヘリックスからなる球形の構造をしていて、ドメインIIとは長いループ領域で繋がっている。基質結合部位はドメインIとドメインIIの間のクレフトにあり、一般的にセリンプロテアーゼでは活性部位にSer-His-Aspの3残基が関与しているのに対して、Cys-145とHis-41の2残基が関与している。SARS-CoV Mpro はpH7.3-8.5では高いプロテアーゼ活性を示すがpH6.0ではその活性が約半分となる。それを、裏付けるかのようにpH6.0でのこの結晶構造中では、二量体の一方 (プロトマーA) が同時に解かれたpH7.6やpH8.0での立体構造 (PDBjMine:1UK3、PDBjMine:1UK2) と同じ活性型の構造をしているのに対して、もう一方の構造(プロトマーB)はそれらと異なる不活性型の構造をとっている。すなわち、プロトマーBでは基質結合部位の構造が部分的に崩れており、pH6.0での結晶に基質アナログの阻害剤をソーキングした複合体の結晶構造 (PDBjMine:1UK4) ではプロトマーBにも阻害剤が結合しているものの、基質結合ポケットのうちの一つに入ることができていない。これらのpH依存的な構造の変化や誤った阻害剤の結合様式の知見は合理的な薬剤設計の構造学的な基盤となりうると考えられる。 タンパク質構造データバンク(PDB)参考文献原論文
その他著者: 松田 知己 |